メッセージ

Messages from Dr. Yoshihiro Konishi

私の経験と抱負

小西良弘小学校のころ、鳴らなくなったラジオを、あちこちさわっていると急に鳴り出したのが面白くなり、また「電波技術」に投稿して鉛筆を賞にもらったことが、京都大学の電気工学教室に入り、そしてNHKに入社した動機の一つとなっている。
NHKに入ったのは、ちょうどテレビ放送が始まるころで、夜中にTV送信機を調整しながら、電波の一方通行の役割を果たす、サーキュレーターがあれば調整が楽だと常に思っていた。これが集中定数サーキュレーターを発明した動機となり、後に紫綬褒章を頂いた。

1965年頃から世界中で衛星放送を行なう提案がなされ、私もその受信機開発に取り組み、画期的な低雑音受信機を開発した。これを用いた米国NASAとNHKとの共同受信実験のプロジェクトリーダーをまかされ、CTS実験衛星を使って、60cmのアンテナによる空からのTV映像受信に世界ではじめて成功した。そしてこれが今の衛星放送につながっている事は、私のひそかな誇りである。
その後、ユニデン株式会社の副社長当時、米国ではCATVの番組分配のために衛星通信の受信機が普及しつつあり、全米の受信機シェアの60%をしめる第一位におどり出たうれしい経験もある。また、当時マイクロ波に用いられる新しいセラミック材料が次々と開発されており、それらを用いた部品の開発を行い大量生産に成功している。

1994年にはIEEEのMicrowave Career Award受賞の栄を浴した。
私は特に新しい材料を用いて新しいものを作り出すのをひとつの理念・方針としており、これは京都大学時代の阿部先生の材料の講義などが、いまだに私の中に生きていると感謝している。また、当時たまり場での友人たちと過ごした自由な青春の時間は、その後多くの発明を生んだ私の創造力に結びつく人生の宝であると思っている。

1994年以来東京工芸大学の電子工学科教授として、学生に常に自分で考える教育を行なってきた。
2010年には日本で120兆円、世界では500兆円という大規模なマルチメディア時代が到来し、無線技術は50兆円産業となり恐らく世界経済のリーダーシップを取っていくであろう。衛星や月からの太陽電池による無公害な宇宙発電とその伝送も、マイクロ波の大きなプロジェクトとなる。人間と電磁波、生体と電磁波との関連、地下レーダーなどのセンサー、更には新しい周波数、たとえばテラヘルツ帯の開発が必要である。そして以上の技術をささえる新素材の開発、無線技術と他の工学との融合技術など、非常に多くの技術の開発研究が必要になる。21世紀には無線技術も、技術と感性との調和のある人類社会にむけて大きく貢献するであろう。私はこれらの開発をになう若手技術者の育成のために、マイクロ波技術における考え方・発想法というテーマで、産業界で過去3年間講座を開いてきたが、これからも発展的に続けるつもりである。我々のノウハウを次世代の一人でも多くにトランスファして、日本の知的財産を築いていき、21世紀の世界に向けての技術のリーダーシップをとっていただきたいのが願いである。

若き技術者へのメッセージ 

NHK時代の経験より

  • NHK京都放送局に勤務した年に、上司の技術課長よりスタジオの雑音の改善について工夫せよと云われ、これをまとめて報告した。これが現在における研究活動に大いに役立っている。小さな事でも工夫せよ。これが発想の原点である。

  • 研究所時代には、毎朝1時間のフリーディスカッションを行なった。テーマは誰ともなく提起し、これがプレインストーミングと各自の問題意識、未知への好奇心、探究心の向上に非常に役立った。これが技術を好きになる動機にもつながる。好きこそものの上手なれ。

  • 実際問題から基本問題を探求する習慣がつき、それを逆に他へ展開する喜びを感じた。帰納と演繹の繰り返しにより1つの問題をいくつかの方面から見る欲望を感じた。

  • 生駒の送信所で経験したことが動機となり集中定数サーキュレーターを発明し、全国の送信機に用いられた。

  • 米国での客員研究員としての1年間で、研究と共に人脈をつくる事ができ、自分の財産となった。

  • CTSを使って米国のNASAと共同受信実験のプロジェクトリーダーとなり、衛星放送実現に於る大きな役割を果たした。この時より数年以前に立体平面回路を発明したのがみのった。

ユニデン時代の経験より

  • 研究開発したものが実用化され巨大な売上を計上することができる喜びは製造メーカーの技術者の達成感でもある。

  • 技術は個人、企業そして国の財産であり、これを経営に結び付けるにはTwo Hatsの心構えが必要である。
    技術者であり、経営者である。人こそ企業なり。一企業は自分にかかっている。

  • 副社長を勤めた間、常に企画と計画とが重要なことであった。これは時折朝令暮改であっても止むを得ない。常に暫定的な計画をもつことが大事である。目的意識があって始めて活力が湧く。

東京工芸大学の教員時代の経験より

  • これから世の中を担ってゆく若い技術者に如何に教えて育ててゆくかを勉強させて頂き、如何に学生と一体感を持ってゆくかを学んだ。そしてこれは大変重要で難しいということも学んだ。NHK時代の毎日のプレインストーミングを、電磁気学の最後の15分間に実施した。

  • 企業人としての出発直前の教育なので非常に責任を感じた。米国の大学では2年生頃から目的意識をもち、卒研の方向をきめており、支払った授業料を自分の知識と実力をつけるのに取り返そうとしている。今後、日本の学生もそうであって欲しい。

  • 4人の社会人の方々が工学博士を取得されるに当たってお手伝いでき、その方々がトップ経営者に、また技術指導者の立場でご活躍されていることが本当に嬉しく存じている。

将来への抱負

NHK、メーカー及び大学を通しての経験を踏まえて、これから社会を背負って行く若い技術者の教育に全力をあげたい。
21世紀の電波エレクトロニックスでは、エネルギー輸送、センサー、テラヘルツ帯など未知の電波領域の開拓などに関するシード技術の開発が必要であり、また電磁波だけでなく、他の波との併用技術により新しい機能デバイス、そしてその応用をシステムを平行して開発することが必要である。その一助にも役立てばと思っている。

Dr. Konishi, Yoshihiro

To make progress towards the new micro wave technology of tomorrow with a new generation of scientist and engineers.


First Direct Broadcast Satellite Service Earns IEEE Milestone. "A key breakthrough was the invention by Yoshihiro Konishi, NHK research engineer in chief, of an inexpensive solid-plane circuit with a low noise figure in the 12-gigahertz band."
(News source from IEEE the institute)